イーベックのヒトモノクローナル抗体作製はEBウイルスを用いる、非常にオーソドックスな方法です。つまり、ヒト末梢血Bリンパ球にEVウイルスを感染させて増殖能力を付加し、抗体の遺伝子をクローニングするという技術です。

現在、抗体遺伝子クローニングはヒト化抗体遺伝子保有マウスに抗原を免疫して感作する抗体作製法、ファージディスプレイを用いた網羅的な抗体スクリーニングによる作製法が主流になりつつあります。

しかしながらイーベックでは、数々のメリットがあることからヒト末梢血Bリンパ球由来の抗体遺伝子クローニングにこだわってヒト抗体を作製しています。

​全体の流れ

図の丸数字と併せてご覧ください。

① まず、10~20mlの血液からBリンパ球を分離します。

② Bリンパ球にEBウイルスを感染させます。

③ Bリンパ球を培養し、ELISAなどで目的抗体の産生集団を探します。

④ Bリンパ球から目的とする抗体を産生している細胞を分離します。

⑤ 抗体遺伝子の分離(クローニング)、抗体産生。

当社の抗体作製は末梢血に含まれるリンパ球を材料にする特性上、ヒト末梢血に存在しない抗体はクローニングできません。そのため、様々なバリエーションの免疫を持つ血液を入手することが重要な戦略となります。

現在保有している健常人末梢血リンパ球はもとより、大学病院との共同研究、国や地方自治体への呼びかけ、当社基準を満たしたインフォームドコンセントを取得済みの海外検体などを通じて、目的の疾患に応じた様々な検体の入手と、そのライブラリ化を予定しています。

末梢血から抗体をクローニングするメリット

1.高い親和性

ヒト末梢血由来の抗体は、マウスに単回免疫して作製する抗体と比較して高い親和性(アフィニティー)を示す傾向があります。

(解説)

結合解離定数KDは、アフィニティと呼ばれ、抗体と標的抗原の結合の強さを表す指標です。数字が小さいほど結合能力が強いことを表します(E以降の数字は1小さくなると抗体の結合能力が10倍強くなることを意味します)。

マウスに大量の抗原を単回免疫して作製する抗体の親和性(解離定数KD)はおよそ1.00E-08から1.00E-09(M)が一般的です。上記の表に示したイーベック抗体は、おおよそ1.00E-09から1.00E-11の範囲にあるので、マウス抗体に比べ10〜1000倍強い結合能力があることがわかります。

高親和性、その理由は体細胞超変異(Somatic hypermutation)にあり

ヒトの遺伝情報(染色体)は父と母から半分ずつ分け与えられ、子に遺伝していきます。この方法は人類が地球上に生まれてから、現在に至るまで例外なく続けられてきました。このことから、ヒトはヒトとして誕生した時点で、各々が持つ遺伝情報は生涯変わらない、不動である宿命を負います。心臓、肝臓、筋肉・・・体を形作るすべての細胞に「核」は存在しますが、そのすべての核に例外なく、同じ遺伝情報が搭載されています。抗体を構成している遺伝子も然りです。

しかし、ヒトは抗体を作る際、非常にユニークなシステムを導入しています。抗体は将来出会うかもしれない未知の外敵に対しての武器となりますが、ヒトはあらゆる敵に対して対応できるよう、抗体に多様性を持たせる戦略をとりました。このために、完成したたくさんの抗体遺伝子を直接染色体に乗せるよりも、抗体を特定の遺伝子の組み合わせによって作り出す画期的なシステムを導入したのです(利根川進、ノーベル賞受賞)。この組み合わせの理論によって、ヒトは限られた不動の遺伝情報の中から、非常にたくさんの種類の抗体を効率的に作り出す事ができます。

さらに、抗体に限っては生涯変わらない筈の遺伝情報を進化させる手段を持ち合わせています。これが、体細胞超変異(Somatic Hypermutation)です。あくまで細胞(リンパ球)単位の進化ですが、1度感染した病気に2度目は罹りにくくなるように、ヒト(リンパ球)は今まで出会った外敵を記憶することができます。実は、2度目以降もこの記憶のシステムは存在し、外敵に会う度に一段と良い抗体が作られていくメカニズムになっています。ヒトは人生をかけて抗体を進化し続けることができるシステムを体得しているのです。

図 体細胞超変異のイメージ

 (引用元:Berek, C and Milstein, C. (1988). Maturation of the antibody response to          2-phenyl oxazolone. Immunological Reviews, 105, 5. redrawn by C Scotti.)

2.高い安全性―自己反応性Bリンパ球の排除機構

前章で、ヒトは遺伝子の組み合わせによって非常にたくさんの種類の抗体を作り出すことが可能と説明しました。実は、このシステムは良いことばかりではありません。体にとって、この多様性が裏目に出てしまうこともあるのです。例えば、抗体の組み合わせが限りなくある関係で、本来あってはならない「自己組織への結合」が起きてしまうことがあります。これが起きると、抗体が自己を外敵と見なしてしまい、自己組織に対する破壊行為が始まってしまいます。これは、体にとって非常に危ない状態です。しかし、ヒトの体は非常にとても上手くできていて、このような自己組織へ結合する抗体を排除するシステムが存在しています。

このシステムのもと、めでたく試験をパスしたリンパ球だけが外敵を見つけるべく、末梢(血液内)などで役割を担うことができます。これら試験をパスするリンパ球の割合は、もともと作り出されるリンパ球のほんの一握りであると言われています。

以上のことから、末梢血から得られるリンパ球から作られるヒト抗体は、自己組織への反応性が認められない非常に安全な抗体であり、ヒト遺伝子を売りにした「ヒト型抗体」のさらに上をゆく安全性能であることがお分かりいただけたかと思います。

図 自己反応性リンパ球の選択
(引用元:笹月健彦 監訳『免疫生物学』     第5版、南江堂、2003年、15頁)

3. 開発スピードが速い―ヒト化の工程が不要に!

マウス抗体作製法は、目的の抗原に対する抗体を効率よく作り出すには非常に優秀な方法です。しかしながら、創薬の観点からすると、抗抗体出現を回避するためのキメラ化やヒト化の工程が必須になります。さらに、上記過程を経た結果、抗原への親和性やエピトープが変化することが無視できない確率で発生する可能性があります。

マウス抗体を創薬の礎とするには、マウス抗体を得るだけでなく、これらすべての問題点をクリアしつつ開発する必要があり、これにともなう実験の労力と時間は計り知れません。

 

イーベックのヒト抗体は、すでに完成した抗体を取得してくる訳ですから単純明快であり、その開発自体もスピーディーです。もちろん、上記憂いについての心配や実験も不要です。

 

イーベックの抗体作製法の代償としては、ヒトに対して計画的な感作ができない関係上、使用できる検体をいかに入手できるかが、重要な課題として挙げられます。イーベックでは、将来のよりよい抗体作製のために、健常人に限らず、特定の感染症に罹患歴のある方の検体を入手する準備を始めています。

近年、抗体医薬の市場は大きく拡大し続けています。医薬品市場において長く市場を占めていた低分子薬に対し、抗体医薬を含むバイオ医薬品売上は2001年には医薬全体の10%ほどの規模に留まっていましたが、2014年には医薬全体の70%を占めるまでに成長しました。さらに現在販売されている医薬品の売り上げ上位10品目のうち、5種が抗体医薬で占められています。現在世界で流通す1万数千件超の医薬品に対し、抗体医薬はわずか30種の抗体だけで、これほど大きな市場を作り出しています。これには抗体医薬の高い治療効果、高い安全性が強く反映されています。

イーベックではこれまで医療用抗体を中心としたヒト抗体遺伝子クローニングのノウハウを積み重ねて参りました。健常人抗体ライブラリをはじめ、ヒト抗体作製に特化した研究開発体制を備えております。ヒト末梢血由来の抗体の特性から、医薬としてのヒト抗体の需要は益々高まると推測しています。

抗体は、治療用はもとより、診断のための検査でも広く利用されています。これは、抗体の標的を限定して認識する「特異性」を最大限利用した使用法であり、抗体の特性を最も有効に利用した形です。今般、認知されている妊娠検査キット(尿中のホルモンを検出)や、感染症に罹患しているかどうか、アレルギーの有無、各種ホルモンの分泌量など多岐にわたる検査に抗体が使用されています。

これらの臨床検査は、常に感度の向上、誤診の排除が求められるため、新しい抗体が常に必要とされています。このことから、診断薬メーカーでは、今まで診断薬のベースであったマウス抗体からヒト抗体に診断薬のベースをスイッチする動向が見られています。この背景には、ヒトに僅かな割合で存在する、偽陽性の原因である、“抗マウス抗体””の存在も少なからず影響しています。イーベックの抗体は完全ヒト抗体であるため、抗マウス抗体が混在している検体でも偽陽性を認めることなく、正しく検出できるメリットがあります。

大学や研究機関での学術的な実験においても、ヒト抗体は非常に有用な研究ツールです。イーベックでは、ヒト末梢血の抗体を対象にしている関係上、高親和性や高中和活性の抗体作製が見込めます。このことから、ELISAや免疫染色(Immunocytochemistry, Immunohistochemistry, western blot, IP etc.)などの一般的な抗原結合性実験に限らず、in vitroやin vivo実験での陽性コントロールや陰性コントロールとしてもお使いいただけます。また、ヒト抗体であるため、通常のマウス、ラビット抗体と混和しての多重染色にも十分対応できる抗体であり、実験の幅が広がります。